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FORZA STYLE - 粋なダンナのLuxuaryWebMagazine
日髙夏子のこじらせ映画評

ドラッグクイーンの生き方から自己愛を学ぶ❤ 番外編

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その出来事を隠すように。

そして、その時の弱い自分を覆い隠すように。

そう、誰にとっても自分を受け入れるためのパワーになってくれるものが、ファッションです。少し前のことですが、大好きだった彼とお別れ話をした日、彼と過ごした長い時間の中ではナゼか涙が出てこなかったのですが、家に着いて一人になった瞬間に涙が溢れて止まらなくなってしまいました。体中の力が抜けたのでしょうか? それとも現実を受け入れなくちゃいけないとやっと気付いたからでしょうか? もう、どうにもこうにも止まらなかった。

そのまま、いつも私をバカにしてどんなことも笑い飛ばしてくれる仕事仲間の男友達に、夜中にも関わらず電話をしてしまったのですが、その間もずっと涙が止まらなかった。

でも、そんな時に限って次の日は朝から会議。すぐに朝がやってきてしまい、重すぎる体を奮い立たせ、なんとか起き上がったのですが・・・案の定、寝起きの顔があまりにも酷い。もともと、化粧顔とすっぴんが天と地の如くかけ離れてはいるのですが、もうここまでくると未確認生物のようで自分で自分に苦笑い。これはヤバイと焦り、今までにないほどに丁寧に特殊メイク並のメイクに挑んだことは今でも忘れられません。

そして、這い蹲りそうになりながらも無事に出社。なんとか会議を乗り越えた後、偶然エレベーターであの男友達とすれ違いました。一瞬、心配そうな顔をしていた彼ですが、私の姿を見て笑いながら「お前なら大丈夫だ。」と一言告げて去っていきました。おいおいっ! と思ったのですが、よく考えるとその日の私は、いつもよりもばっちりのメイク、タイトスカート、そして高め・細めのハイヒールで廊下をカツカツを音を鳴らして歩いていた。そう、無意識のうちに、必死に自分を奮い立たせていたんです。

本当は、泣いて誰かに頼ったり相談すればよかったのかもしれませんが、こじらせ女の私はそれが出来なかった。なんとか自分で立って歩かなきゃと。何事もなかったかのようにしなくちゃと。いつも以上にきっちりしたファッションやメイクで武装することで、弱い自分をなんとか奮い立たせていたのでしょう。とはいえ、その日は一日中、ふいに溢れてくる涙と必死に格闘していました。その度に、マスカラが溶けそうになって黒い涙を流しかけていたことは、ここだけの秘密です笑。

こういう時、女性に生れて良かったと思うんです。だって、男性はメイクで涙を隠せないから。読者のみなさん、すいません!

でも、ドラァグクイーンの彼女たちが流した涙は、目に見えるものも、心の中で流したものも、私の何倍にもなっているはず。だから、彼女たちも流した涙の跡を隠すために、何重にもメイクを重ねて来てしまったので、あんなに派手なメイクに辿りついたのかもしれませんね。

メイクだけでなく、ファッションにも同じことが言えると思うんです。ドラァグクイーンにとってド派手なファッションは、セクシャル的には男性である自分を隠して、女性になるための手段・武器なんでしょう。そう、ファッションは自分を守ってくれる、そして奮い立たせてくれる、そんなパワーを持っている。彼女たちには守らなくてはいけない、自分の傷や過去がたくさんある。だから、こんなにど派手なファッションを身に纏っているのかもしれませんね。

そして、このファッションのパワーは男性にも女性にも、ドラァグクイーンにも同じように与えられるものだと思うんです! 私も、あの別れは確かに辛かったし今でも忘れることは出来ませんが、そんな時にこそファッションのパワーを借りることが出来た。自分の力だけでは難しいことも、ファッションは力を貸してくれるんですね。

そんな素晴らしいパワーがあるんですもの。私も、FORZA読者のみなさんや編集部のみなさんと同じようにファッションへの愛も、もっともっとこじらせてしまいそうですね笑。

後から、あの仕事仲間に「俺は、お前がちゃんと前を向いて歩いていたから、大丈夫だって思ったんだよ。ちゃんと、お前なりに今の自分を受け入れているんだとうなーと思って。なんか、かっこよかったよ」といわれました。ちょっと惚れてしまいそうな言葉ですよね笑。 あの時の私は、ただ立っていることに必死でした。でもその分、真っ直ぐに立つために、自分の状況を必死に受け入れていたのかもしれません。

そんな姿が、いつもの私にはないようなパワーを放っていたのでしょうか? といっても、やっぱり辛かったし、影では泣いてばかりでしたが・・・。その分、弱い自分を隠すために人前ではいつも以上に真っ直ぐ前を向いていたのでしょうね。こうやって人って、辛い経験を乗り越えて、自分を奮い立たせながら強くてなっていくのかもしれません。

ドラァグクイーンの彼女たちも、苦しみながらも自分を受け入れ、必死に前を向いていた。そんな彼女たちから発せられるパワーは、周りの人を魅了してしまうような強くて美しいものなんでしょうね。やっぱり私にとって彼女たちは眩しい存在であり、まだまだ敵いそうにありませんね。

そんな強くて美しいドラァグクイーンたちの唯一無二の世界を堪能出来る「プリシラ」ですが、上映はいよいよ29日まで! 今ならまだ間に合いますので、2016年にたまったモヤモヤを吹っ飛ばすために、今年の締めくくりに是非ご覧くださいませ。

残念ながら間に合わなそうという貴方。その場合は、原作の映画ももちろん一見の価値がありますので、こちらを楽しみくださいませ。今のあなたを助けてくれるような、キラキラしたパワーを分けてもらえるかもしれませんよ。
それではみなさま、今日も素敵な1日をお過ごしください♡

Photo:Riki Kashiwabara
Text:Natsuko Hidaka

Edit:栗原P

【ミュージカル プリシラ】
演出:宮本亜門
出演:山崎育三郎、ユナク/古屋敬多(Wキャスト)、陣内孝則 ほか
会場:日生劇場
公演期間:上演中~12月29日(木)
お問合せ:東宝テレザーブ03-3201-7777(9:30~17:30)

【ひだか・なつこ】
小学校から大学までの16年間を附属の女子校で過ごした“こじらせ女”。(幼稚園もほぼ女子校だったので、それもカウントすると約20年間)幼い頃に家族の影響でエンターテイメントに目覚る。中学・高校をミュージカルに、大学生活を映画館でのアルバイトに捧げ、海外ドラマ廃人も経験する。映画やエンターテイメントとより多くの人を結びつけたいという想いから、放送局に入社。今でも毎週末は映画館で過ごし、これまで見た作品は約4000本。そんな映画への愛をこじらせ、コンシェルジュとして今回の連載を担当する。なつこのインスタグラムはこちら







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