【フィアットの元会長】ジャンニ・アニエッリの人生、ファッション、スーツとは？

"世界には想像の遥か上を行く、お洒落な偉人たちがいた"。『MEN'S CLUB』『Gentry』『DORSO』など、数々のファッション誌の編集長を歴任した先輩である林 信朗氏を訪ね、お洒落偉人たちのお話をレクチャーしてもらいます。

新連載一回目は、編集長・干場も敬愛するジャンニ・アニエリについてたずねます。

林：キミも忙しそうじゃないか。

ヤナカ：はい、ウェブマガジンは更新が勝負ですから、毎日締切のようなものでして盆も正月もありません。スタッフも少ないので、いっぱいいっぱいなんですよ。

林：まぁ編集とはそんなものだ。手を抜こうと思えばいくらでも抜けるし、逆に、凝りだしたら、際限がないから。それで、なんだい、本日の御用のオモムキは？

ヤナカ：先日の編集会議で、編集長の干場が「読み物をもっと充実させたい」と、かなりマジで言うんですよ。

林：いいじゃないか。けっこうなことだ。「カッコいい」ビジュアルも「お役立ち」情報も大切だが、「ためになる」読み物もメディアの重要コンテンツだよ。その三つがいいバランスで混ざるのがヨロシイね。

ヤナカ：で、「例えばどういう切り口ですか」と訊いたら、「イタリアのジャンニ・アニエリって、カッコイイじゃない。男としてすごく憧れるんだけど、ああいう『お洒落偉人』のような人の評伝とかさ」って……。僕も「いいですね～！」と速攻反応したんですが、実は詳しいところはほとんど知らなくって……(笑) 。でも、たしかにそういう企画、『FORZA STYLE』にあったらいいと思われませんか。そもそも"FORZA"というマガジンタイトルそのものが、イタリアですし。それで、今日は、大先輩のところに教えを乞いに、というワケでして。

林：自分で調べる前に、まず、知っていそうな人のところにいく。相変わらず安易だなあ、キミは。そういうことか。

ヤナカ：勘弁してくださいよ。一応、だいたいのところは調べてますよ。アニエリは、60年代、70年代のフィアットの会長ですよね？ 大金持ちで、お洒落で……。時計をシャツのカフスの上からしちゃうとか。

林：そうだね。いまだってイタリアで過去現在の「お洒落なイタリア男」アンケートをとれば、間違いなく上位に入るだろう。

ヤナカ：日本でいえば、白洲次郎みたいな存在ですか？

林：うん、そう。かぶるところなきにしもあらずだね。白洲次郎も、背が高くて、白いＴシャツとジーンズが似合うスポーツ好き、車好きの男だった。でもね、それだけでは、単なるお洒落野郎どまりじゃないか。白洲がこれほどまで日本の男性の心を捉えたのは、敗戦後、日本の復興を吉田茂の手足になって支え、しかも自らは地位や栄誉に恬淡としていた、という彼の生き方に負うところが大きい。

ヤナカ：テンタンとしていた？

林：「ガツガツしていない」ということだよ。キミは勉強も足りないね。

ヤナカ：アハハハ、すいません。失礼しました。

林：つまりね、白洲次郎の場合、生き方とスタイルが車の両輪だった。で、同じようなことがアニエリについても言えるわけだよ。アニエリのファッションについて、ぼくは日本でもっとも早く注目し、雑誌でも取り上げ、そうとうつっこんで解説しているという自負があるけれど、調べれば調べるほど、カラチェニのスーツや、ボタンダウンシャツのエリ先のボタンを外して着る彼のファッションは、あの大きな男の魅力の一部に過ぎないと思う。

ヤナカ：お、大先輩のってきましたね！

林：そうやってぼくを、おちょくるのもキミの悪い癖だ。まぁ、いい。そういうわけで、もしアニエリが干場編集長の言うような「お洒落偉人」としてだよ、その源泉ともいうべきアニエリの男としての、人間としての魅力に触れなければその評伝は表面的なものに過ぎない。

ヤナカ：ぜひ、そこんところを微に入り細に入りご教示いただきたく。そうすれば干場編集長との打ち合わせも大いばりです。

林：そうだね。今日はこれからちょっと食事会があるので出かけないといけないが、来週またやろう。

ヤナカ：ぜひ！！！

林：OKOK。そんときはさ、クッキー一袋でもいいから「美味しそうだったのでお持ちしました」とか言いながら持ってくる。エディターの道はね「人たらし」の道でもあるんだよ、ヤナカ君！

ヤナカ：はは～、大先輩！！！ 失礼しましたーー。

次回へと続く。

Text：Shinro Hayashi
Photo：Tatsuya Hamamura
Edit：Ryutaro Yanaka

林 信朗
服飾評論家
『MEN'S CLUB』『Gentry』『DORSO』など、数々のファッション誌の編集長を歴任した後、フリーの服飾評論家に。メンズファッションへの造詣の深さはファッション業界随一。ダンディを地で行く大先輩。