干場:ビームスは皆さんバイヤーという枠にとどまらない。もはやモデリストですよね。それでは最後の松をお願いいたします。こちらは?
無藤:マック ジョージのニットで8万円です。
干場:うわ、超懐かしい! すごいブランドが来ましたね。こちらはカシミアですか?
無藤:これは懐かしいよね。カシミアです。やはり英国の上質なニットブランドと言えば、マック ジョージだもんね。
干場:これはずっと、ビームスでの取り扱っていたんですか?
無藤:最近、復活したんです。以前はずっと定番で扱っていたんですが。
干場:90年代ですよね。その時はどんなものを扱っていたんですか?
無藤:メリノウールのクルーネックやVネックです。
干場:まさにビームスFらしい商品だったんですね。
無藤:その頃は英国ニットはコーギーなども扱っていましたね。ハンドインターシャのアーガイルとか。ビームスFの王道ブランドだったんです。あとはジョン スメドレー。
これはトレンドカラーでもあるグレーで、メランジというのがいいですよね。黒いパンツなんかと合わせたい。90年代前半に見られたプラダのスタイリングのようなイメージ。もう少しトラディショナルなテイストが好きな人は、オフホワイトやオイスターホワイトのような色味のパンツを合わせると新しい感じが出る。さっきも話しましたが、原色だとトラディショナルにはなるんだけど、新しさは感じない。
このニット一枚にパンツを合わせるだけで大人の優雅なカジュアルスタイルが完成しますよね。エレガントに見える。とても普通なんだけど、「お、カシミアなんだ」という。
干場:今日、無藤さんとの対談のテーマがニットって聞いて、どんなものを持ってきてくださるんだろう?って思っていたんです。先ほども話しに出ましたが、無藤さんには大人の色気を教えていただいたんです。ニットって色っぽいアイテムというより、ほっこりしがちだし。
でも、最後にマック ジョージが出てきて、なるほど! 大人のアイテムだな、と納得しました。今回、お持ちいただいた3つのニットの中では、このマック ジョージが欲しいです。凄くいい! アンドレア フェンツィのカーキも良かったんですが。
無藤:ホッシー、持っていそうな雰囲気。
干場:さり気なくてかっこいいです、このニット。チョイスがエロいですね。10万円超えていないという価格帯もいい。
無藤:ホッシーをイメージして選んでいますから。あまりコテコテのものを持ってきても、刺さらないと思ったし……(笑)。
干場:さっすが、無藤さん。僕のことよくわかってます! 間違いないですね!!
無藤:ホッシーは奇をてらったことや、そういう格好をしないじゃない。自然体で、誰でも買えるスタンダードなものをかっこよく着こなしているから、それに合うもの、という基準で選びました。
干場:ありがとうございます! 今回お話しを伺って面白いなと思ったのが、1度廃れてしまったブランドがまた復活して、それをまた探して持ってくるというところですね。
無藤:イタリア人って英国ものが好きなんですよね。大体、こういう英国ブランドが再生するときってイタリアの会社が買収することが多いんです。チャーチ然り、先ほどのマック ジョージもそうなんです。イギリスって頑固でモディファイとかもしないから、変わらない。アップデートしない。
英国で商談して、衿型をこうして欲しい、サイズをこうして欲しいってオーダーしても基本的に一切聞いてくれない。靴なども同様で、柔軟なのはジョージ クレバリーくらいかな。
だから残念なことに英国のブランドって廃れていってしまうんです。そこをイタリアの会社が買収して、いろいろ手を加えていって元の良さが失われてしまうことも多いんです。
干場:なるほど。ところで無藤さんはピッティにも毎シーズンいらっしゃってますが、この秋冬から次のシーズンに向けて、ファッションはどんな傾向になるんでしょうか?
無藤:スーツはサルトリアルックと言って、ナポリのテーラーであつらえたようなパーソナルディテールが増えてきています。所謂、既製品ではあまり使われない、チェンジポケットやサイドアジャスター、ベルトレスのパンツのようなディテール使いが多く見られます。
干場:それはオーダーに憧れがあるっていうことなのでしょうか?
無藤:それらは実はピッティの出展者たちが提案してきたスタイルじゃないんですよ。15年夏のピッティの頃から、服好きの人たちが、そういうスタイルで現れ始めたんです。カジュアル化へのアンチテーゼという感じで。タイバーをしたり、プリーツ入りの太めのパンツを穿いたり。
干場:やはりクラシック傾向に戻ってきているんですね。
無藤:そうなんです、戻ってきている。16年冬のピッティから、サイドアジャスター、ラウンドカラーやタブカラーなどが見られ、ジレも襟付きになっていたりしました。
あとはアメリカンスタイルというのも出てきていますね。ベースはアメリカブランドでなく、イギリスのものやイタリアのナチュラルなスタイルなんだけれど、シャツがラウンドカラーだったり、タイがレジメンタルだったり、プレーントゥの靴を合わせる、というようなスタイルです。
これはスーツやジャケットスタイルだけでなく、カジュアルスタイルでも同様で、今日の僕のコーディネートもそうですね。
干場:今日の無藤さんのシャツはどちらのものですか? パッと見たらブルックスブラザーズやラルフ ローレンの雰囲気ですが。
無藤:ブリッラ イル ペル グストのオリジナルです。スーツもブリッラのオリジナルで、生地はカイノックのホームスパンです。チェンジポケット付きで、ベルトの持ち出しが長い2プリーツパンツです。靴はオールデンのプレーントゥです。
干場:肩のラインは丸くてイタリアっぽいですよね。アメリカもののスーツという雰囲気ではないですよね。
無藤:そうなんです。アメリカっぽく見える空気感。
干場:このスタイルには、チーフは入れないんですか?
無藤:今日は、あえて入れてないんですけれど、柄もののチーフなんかもいいですよね。ただ、柄ものを入れると、英国っぽい雰囲気になってしまうし、TVホールドで入れるのもワザとらしい感じになってしまうので、今日は入れてないんです。
干場:なるほど! 無藤さんの着こなしはやはり勉強になりますね。今日はどうもありがとうございました。
Photo:Tatsuya Hamamura
Text:Yoshie Hayashima
無藤和彦(むとうかずひこ)
ブリッラ ペル イル グスト ディレクター。
1989年ビームス入社。渋谷店、銀座店勤務を経て、メンズクロージングレーベル「ブリッラ ペル イル グスト」を立ち上げディレクターに就任し、現在に至る。最近は水泳にはまっており、メドレーのタイムを上げる為に全ての泳ぎのフォーム改善に努めている。