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【派閥争い、どっちに付くべきか? トランプ勝利で考える】
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自分の損得だけで判断するのはダメですか?

日本の哲学者小川先生だからこそできる、哲学的・お悩み相談室!さて、今回の相談者のお悩みを紹介しましょう。

今回は、上司の派閥問題で悩んでいる男性からの難問ですよ! 哲学者の小川先生はどう答えてくれるのでしょう?

A課長にしようか、B課長にしようか。判断基準がわかりません。

職場内に派閥の対立があります。A課長は隣の課の課長なんですが、私をかわいがってくれていて、おそらくこの人についていけば、出世はできると思います。でも、仕事ができるかどうかということでいうと、断然自分の今の直属の上司のB課長のほうです。会社の利益を生み出しているのも、B課長の方です。二人は仲が悪く、出世競争をしています。これからこの会社でやっていくうえで、どっちにつけばいいか悩んでいます……。同じ日に飲みに誘われたり、もう踏み絵状態です。アメリカの大統領選でトランプを選んだ人たちは、やっぱり自分が得するほうを選んだんですよね? 自分の身のために、上司を選ぶという判断でいいんでしょうか?(28歳 営業職)

組織の一員である以上、常に組織全体のことを考える

どこの職場にも派閥争いというのはあるものです。学生時代に『課長島耕作』を読んでいたときは、こんなのは漫画の世界だと思い込んでいましたが、社会に出てから、現実は漫画よりも面倒だということを思い知りました。私は商社、市役所、大学とまったく異なる業種を渡り歩いてきましたが、光景はいつも同じです。おそらく派閥争いというのは、人間のサガなのでしょう。

さて、相談者さんはどっちの課長につくかで、迷われているみたいですね。自分を出世させてくれる見込みの高いA課長か、仕事のできるB課長か。悩ましいところです。たしかにアメリカの大統領選挙に倣うなら、自分によりメリットのある候補者を選ぶということになるのでしょう。相談者さんもご指摘のとおり、おそらくそうした判断のもとにトランプを選んだ人が多かったのだと思います。

何しろアメリカ第一主義を掲げているくらいですから、多くのアメリカ人は、トランプが大統領になったほうが自分のことを優先して考えてもらえると判断したのでしょう。でも、なぜかあの選挙結果には釈然としないものがあります。おそらくそれは、正義を感じられないからではないでしょうか。

大統領を選ぶというのは、自分のためでもありますが、その前に社会全体、国全体のためでもあるはずです。いや、アメリカのような世界一の国の場合、世界全体のことも考えて選ぶ必要があるかもしれません。どうもその視点が抜けているような気がするのです。移民やマイノリティを排除していいのかどうか、世界の他の国のことは考えなくていいのかどうか。はたしてそれでアメリカという国がよくなるのか……。

アメリカの政治哲学者ジョン・ロールズは、名著『正義論』の中で、「無知のベール」という思考実験を唱えました。何が正義なのか、何が正しいのかということを考える際には、まずあたかも無知になるベールをかぶることで、自分の情報を脇に置かなければならないと提案したのです。そうすることではじめて、物事は公平に判断できるのだと。

つまり、大統領選の場合でいうと、自分にとって得か損かではなく、どっちにつくのが社会や国にとってプラスなのかを考えるべきだということです。職場の派閥争いもまったく同じです。自分にとってどっちが得かだけを判断基準にしていると、能力が低かったり、問題のある人が出世して、挙句組織をダメにしてしまいます。

組織の一員である以上は、常に組織全体のことを考える必要があります。それに会社も社会的存在ですから、社会への影響も考慮に入れるべきでしょう。リーダーを選ぶ際も、そういうことに資することのできる人かどうかという視点が不可欠です。アメリカ国民ではないですが、後悔のない選択をしてください。まずは無知のベールをかぶって。

Text:Hitoshi Ogawa
Photo:雪ボタン、©gettyimages

【小川仁志】
1970年京都市出身、京都大学法学部卒。伊藤忠商事に入社するも退職し、4年間のフリーター生活を経て名古屋市役所に入庁。その後名古屋市立大学大学院博士後期課程を修了し、博士号取得。2015年には山口大学国際総合科学部准教授となる。専門は公共哲学、および政治哲学。商店街で哲学カフェを主宰するなど、市民のための哲学を実践している。哲学に関する著書多数。

 



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