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FORZA STYLE - 粋なダンナのLuxuaryWebMagazine
FASHION

NEXT40 注目のオトコたち VOL.04
ホワイトマウンテニアリング 相澤陽介に訊く、今とこれから。[前編]

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値札を見ないでも欲しいと思って貰えるような物作り

2000年代にブランドを立ち上げ、シーンを盛り上げてきた方々も40代を迎えようとしています。ファッションの最前線に立ち続けてきた、気になる注目のオトコたちが40代を迎えるにあたって考えていること、会社内での取り組みやプライベート事情までを、彼らと同世代でありファッションの編集者という立場で見続けてきたFORZA STYLEのシニアエディター谷中がヅケヅケと訊いていく連載企画。

4人目は、ホワイトマウンテニアリングのデザイナー相澤陽介氏にインタビューを敢行しました。

時代の流れみたいなものにはある程度反抗していこうとは思っています

相澤陽介(以下相澤/敬称略):お久しぶりですね、谷中さん。

谷中:先日、一緒に飲みましたけど…。さて、間もなく40歳を迎えるにあたって、仕事への向き合い方・捉え方など変わった部分はありますか?

相澤:当然、だいぶ変わったんじゃないかと思います。

谷中:どんな部分に一番大きな変化がありました?

相澤:今年でブランドをスタートさせて丸10年たったわけです。ブランドスタート時の28歳の頃は「自分の個性を全面に出して主張していかないと」とか突っ張っている部分があって、コアな方に進んでいくのが美徳みたいな考え方があったんですが、今はもっと冷静に洋服に向き合えていると思っています。

谷中:ガラッと一気に変わったわけではないと思うんですが、大きな変換点というか、きっかけってありましたか?

相澤:まず、現実を直視するようになりました。 当然ブランドを継続していけばスタッフも増えますし、スタッフたちの人生もある中で、ガムシャラにやっていくことの限界というか好きなことだけやっていくことよりもブランドも自分自身も俯瞰で物事を考えるようになったんだと思います。ブランドをしっかりと運営していかないといけない立場として現状維持ではなく、進むためにはどうしたらいいのかを優先的に考え、自己表現という枠から離れた方が最終的に目的を達成できる可能性があるのでは、という方向性が見えた感じです。ありがたいことに、ここ5年くらいで、たくさんの海外のブランドから声を掛けて頂いて、実際現場に出向くことが多くなったから、「洋服作りって何なんだろう?」っていう心理の方に興味が湧いてきたのもあります。

谷中:他のブランドと接したことでの変化っていうのは、大きかったですか?

相澤:大きかったと思います。デザイナーとしての目標みたいなものがあって「ゆくゆくは、海外でショーを発表したい」と思っていましたが、そことは全然違う軸が自分の仕事のスタイルの中に入り込んでくるわけです。スタッフも人種も違う座組みの中でデザインをしないといけないし、クライアントが求めていることも異なります。自分の仕事に方法論っていうのが2つできたから、自分の一番大事なところに関しては「デザイナーとして成り立つ」だけでなく、「ブランドとして成り立つ」ことにも注力するようになりました。 先方にとって僕に仕事をオファーするのは、売れる売れないの判断だけではないんです。なぜなら、それぞれのブランドはインラインで十分に成り立っている。その中でブランドの新しい側面を引き出す作業を行うので考えないといけない内容が、自分のブランドよりも広くなってしまいます。 デザイナーとしてポテンシャルを自分のブランドではない場所で発揮できるようになったっていうのは大きいです。

谷中:色々なブランドからオファーが来るとき、相澤陽介として求められてるものと、自分が考えてるものとのズレを感じることはありますか?

相澤:ズレを感じた時は、お断りしています。クリエイティブな部分で話になるときって、きちんと僕のことを詳しく知ってくれているんです。そういう場合、ジャンルや求めるビジョンが明確なので、仕事としても成り立つんです。

谷中:ちなみにブランド側が相澤さんに求めている部分って、何だと感じていますか?

相澤:いくつか要素はあると思うんですが、ホワイトマウンテニアリングというブランドでアウトドアを機軸に新しい価値観を目指して物づくりを続けてきたことと、そこと真摯に向き合ってファッションの中の流れにハマってきたときは自分にオファーをして貰えるんだと思っています。 これはポジティブに受け入れた場合なんですが、そうじゃないときは企業の中で色々なバズを起こしていくっていうプランがあると思います。 その中にアジアのマーケティングっていうのが現実的な話であって、例えば僕らがヨーロッパのブランドを見たときに僕らの目線での問題点っていうのが見えますよね? そこを越えられないときに、日本できちんとやってくれるデザイナーに託す部分っていうのもある。ファッションはコミュニケーションだと思っているから、コミュニケーションの手段として成り立っていることだと思います。クリエイティブな部分だけでなく、裏側にある思いも納得しながら進めています。

谷中:そういう求められ方が鬱陶しいというか、嫌だなって思ったことはありましたか?

相澤:最初はわからなくて、やっている間になんとなく気付けました。これに気付けているかどうかで、だいぶ違うと思うんです。自分が何を求められていて、何ができるかっていうのを冷静に考えるのは必要ですよね。恥ずかしい言い方かもしれませんが、デザイナーだったらいつかメゾンのデザイナーをやってみたいとかって要求はあります。でも、そこに辿り着くのは相当難しい。でも、そうじゃない道っていうのもあるから、それを理解して、やらなきゃいけない仕事に関しては他のデザイナーに頼まなくて良かったって思われるところまで持っていかないといけない。ブランドが求めるところより、自分たちが求めるところの方が大きかったから、大きい規模の仕事ができる場合もあるんですが、自分たちが動かなければ決められたの枠の中だけで終わってしまうと思うんです。求められた事をさらによくするために、それ以上の提案を繰り返すというイメージです。その前提があって理解して、さらに上を目指してやっていくってことは常に考えます。

谷中:でも、先方の要望以上のことを続けているが故に新しいオファーがひっきりなしに届いているんだと思いますけどね。そんな中で、これからの新しい目標というか、描いている未来って、どんなものですか?

相澤:具体的に何になるっていうのは、独りよがりで考えていてもダメなので、難しいんですが…、時代の流れみたいなものにはある程度反抗していこうとは思っています。今って物質的欲求にアンチになっていますよね。もともと日本人は節約の文化があってそれを美徳としているわけです。 そんな中で物を作ってビジネスにしている以上、その物の純度をどれだけ高めていくかは大事だと思っています。例えば、ベルルッティのお店に行ってレザーの物を見てると、高級品なんですが、その質感というか顔つきを見て欲しくなると思います。単純にワクワクする気持ちみたいな感じで。そういう部分っていうのは一般的に歳を重ねると段々なくなってしまうと思うんです。現実生活の中での優先順位があるわけですから。でも、その欲求みたいなものは上げていきたいと思っているんです。自分には似合わないと思うんですが、鞄ひとつ、財布ひとつ見たときに「なんで、ここは素敵か」っていうのが理解できるようになってきたので、それをこの10年の間に自分のブランドなんかで表現できるようになれればいいなと思っています。

谷中:それは、ホワイトマウンテニアリングを知らない人が商品を見て、触ったときに、高いけどその理由が分かるクオリティを表現していくってことですよね。

相澤:価値ってスゴく難しいですよね。興味がなければピンときませんが、興味があれば何かを削ってでも買いたいっていう。ただ、物質的な欲求を満たす努力をしていかないと、結局その人から出てくるものからも魅力はなくなってくると思うんです。今の流れにある「ものを持たない」とか「できる範囲で行動する」とか、綺麗な言葉だと思うんです。ただ、僕らはファッションを通してエンターテインメントを作る人間だから、そんな人たちがそっち側に行ってしまったらダメだと言い聞かせています。だから、どこまで世の中に存在している価値に寄り添えるかっていうのは必要だと思います。

谷中:僕もあまり好きではないんですが、"身分相応"とかが強く語られる時代になってきてますよね。確かに大切ですが、背伸びすることで得られる何かもあると思うんです。しかも、ここまで「買わない」方向に振り子が振れると、揺り戻しが起こるはずなんですが、そのタームがだいぶ遅くなっている気がするんです…。そんな中で若い子たちの欲求を奮い立たせていくにはどうすればいいと思いますか?

相澤:値札を見ないでも欲しいと思ってもらえるような物作りに力を注ぎたいです。

谷中:それを喚起していくには、どうするのが得策なんですかね? 

相澤:難しいですよね。ウチのブランドで何か良いものを作っても「これ、スペシャルなんです」っていう言葉でしかなくなってしまうから。やっぱり行動しかないと思っています。僕が籠って、ただ良い洋服を作っているだけでは、多くの方々が目に触れる機会は増えないですし。だから、自分たちが目標に近づいていくために努力をしているということを、パリでショーすることや、アディダスとのコラボレーションなどを行い表に立つことによって、喚起していこうと思っているんです。今の人達は賢いですし、情報ツールにも恵まれているから中途半端な物を信用しない。言葉だけでの説得力も弱くなっていくと思んです。でも、自分はこういう活動をしていて、ファッションデザイナーとしてこういうことがしたいんだっていうことが集まる情報のひとつにならなければと思っています。

谷中:集められる側に存在して、責任を担っていくわけですね。

相澤:大きい意味で言えば、ファッションに夢を持たせることになるかもしれないし、現実的にファッションに興味を持っている子たちに対しては説得力になるかもしれないです。

後編へ続く

Text:Ryutaro Yanaka
Photo:Yozo Yoshino

相澤陽介
ホワイトマウンテニアリング デザイナー

2006年 White Mountaineeringをスタート。2010年S/Sより東京にてランウェイ形式によるコレクションを発表し、2015年A/Wよりパリにてコレクションを発表。 Moncler W、BURTON THIRTEEN、Barbour Beacon Heritage Rangeなど、数多くのブランドのデザイナーとしても活躍。



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