【セックスレスが怖い！】「彼との性の未来が不安です」
哲学お悩み相談所。

日本の哲学者小川先生だからこそできる、哲学的・お悩み相談室！ さて、今回の相談者のお悩みを紹介しましょう。

夫婦のセックスレスについて

私は独身の29歳会社員なのですが、周囲の50代くらいの男性の話を聞いていると「妻とは10年体の関係がない」とか「子供が最後に生まれてから体の関係は持っていない」とか平気で言っているので驚いています。

今大好きな彼氏がいて結婚も考えているのですが、いずれレスになり、彼は違う若い女性とばかり関係を持つようになるのかと思うと悲しくなります。でも、これが一般的だということなんですが……本当にそうなんでしょうか？ また、結婚しても彼と愛し合い続けるには、どうすれば良いのでしょうか？

セックスなんてしてるうちはまだダメ

50代どころか、20代でもセックスレスの人はいっぱいいますよね。セックスレスは社会問題になるくらい大きな問題です。それが原因で不倫をしたり、離婚したり。でも、ちょっと考えてもらいたいのですが、どうして無理にセックスをしなければならないのでしょう？

文化の違いで、あたかもそれが夫婦間の義務のようになっているような国もありますが、少なくとも日本ではそんなことはないはずです。夫婦が共にそれを望むならやればいいし、別に望まないならやらなくてもいいのではないでしょうか。そもそもどちらかが義務感を感じつつやるようなセックスに、いったいなんの意味があるのでしょうか？　

そうしないとまるで愛がなくなってしまったかのように思う人がいるのはたしかですが、愛とセックスは違うはずです。最初はセックスをする。それはそれでいいじゃないですか。どんどんやってください。セックスはコミュニケーションの一つのあり方ですし、愛情表現の一つの方法なのですから。ただ、愛情表現の方法は時とともに変わっていくものです。

老夫婦が手をつないで歩いているのを見ると、とても愛を感じますね。本人たちも快感を覚えているのではないでしょうか。きっともうセックスはしていないでしょう。まぁ心臓にも悪いですもんね。

つまり、大事なのはセックスそのものではなく、いかに愛を表現するかなのです。セックスという手段のために愛を見失ってしまうようでは本末転倒です。

古代ギリシアの哲学者プラトンは、『饗宴』という本の中で愛の本質について論じています。彼はそれをエロスと呼びました。エロスといっても、いわゆるエロのことではありません。エロスとは理想を求める精神的な愛のことです。もともと男女はお互いにないものを求めあう生き物です。その気持ちがエロスなのです。

誤解してはいけないのは、ここでいうお互いにないものが、単に肉体的なものを意味しているわけではない点です。そうではなくて、むしろ肉体を越えた精神的な部分を求めることこそが、本当の愛なのです。

言い換えると、エロスとは肉体的なしがらみから自分の精神を解き放つことによって、真の快感を得ようとする営みなのです。だからまだ肉体の愛にとらわれているうちは、本当の愛だとはいえません。あえていうなら、セックスをしているうちはまだ本当の夫婦ではないのです。それは相手の肉体に目がくらんでいるだけです。

セックスなんていう肉体のしがらみから解き放たれ、本当に相手の心を愛することができるようになったとき、夫婦は本当の夫婦になるのです。だから夫婦間のセックスなんてやりまくって、早く飽きたほうがいいのです。お互いを本当に愛するために。

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Text：Hitoshi Ogawa
Photo：雪ボタン、Getty images

【小川仁志】
1970年京都市出身、京都大学法学部卒。伊藤忠商事に入社するも退職し、４年間のフリーター生活を経て名古屋市役所に入庁。その後名古屋市立大学大学院博士後期課程を修了し、博士号取得。2015年には山口大学国際総合科学部准教授となる。専門は公共哲学、および政治哲学。商店街で哲学カフェを主宰するなど、市民のための哲学を実践している。哲学に関する著書多数。