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【デートDV・モラハラ恋人に立ち向かうには!?】
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嫉妬は他人を所有物と思う心から

日本の哲学者小川先生だからこそできる、哲学的・お悩み相談室! さて、今回の相談者のお悩みを紹介しましょう。

Q.モラハラ・デートDV彼氏に悩んでいます

こんにちは、24歳、六本木のキャバクラで働いています。彼のモラハラについて相談させてください。

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彼は暴力をふるうわけではないのですが、精神的な暴力(暴言、会っている時にわざと不機嫌な態度をとる等)を受けている気がします。私は浮気はしていませんが、男友達と遊んだだけでも「その男友達と今すぐ縁を切れ。そうしないと別れる」と脅されたり、過去の恋愛話を聞かれ、それに答えると過去の男性関係にすら嫉妬され文句を言われたりします。

正直、会っている時に幸せを感じることができません。いろいろネットで調べると、こういう精神的圧力は「モラハラ」や「デートDVにあたる」と読みました。こんな彼とうまく付き合っていくためにはどうすれば良いでしょうか。

A.他者は所有物になり得ないということを分からしめよう

物理的な暴力をふるう彼氏などとんでもないですが、精神的な暴力を与える彼氏も困ったものです。相談内容を見る限り嫉妬なのでしょう。でも、それにも限度があります。場合によってはストーカーまがいの行為に発展しかねません。いくら付き合っていたとしても、相手は自分の所有物ではないので、そこまで自由を束縛するのは暴力だといっていいでしょう。私ならとっとと別れます。

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とはいえ、どうしてもその彼氏とうまく付き合っていきたいのなら、相手に態度を改めてもらうよりほかありません。とにかく自分が所有物でないことを認識させるのが先決です。嫉妬深い人というのは、彼氏や彼女、あるいは配偶者をあたかも自分の所有物のごとくとらえていることが多いですから。

そこで参考になるのが、リトアニア出身のユダヤ系哲学者レヴィナスの「顔」の概念です。レヴィナスによると、人間は欲求の塊なので、なんでも自分のものにしようとします。それは対象が物であろうと人であろうと同じです。恋人同士に限らず、親子でも友人でも、なんでも「私のもの」だと思ってしまう生き物なのです。

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でも、本来人間は一人ひとり独立した存在であり、決して誰かのものにしてしまってはいけません。それでは奴隷を認めるのと同じことになってしまいます。実はレヴィナス自身、ユダヤ系であったことからナチスドイツに捕虜にされ、奴隷のような扱いを受けた経験があります。そこでレヴィナスは、自分以外の他者という存在を、誰にも所有することのできない絶対的なものとしてとらえたのです。彼はこういいます。

絶対的に異邦的なものだけが、私たちを教えることができる。そして、私にとって絶対的に異邦的でありうるのは人間のほかにない。(『全体性と無限』)

その絶対に手に入らない他者の存在を最も象徴するのが顔なのです。レヴィナスによると、顔とは他者の現れであり、しかもそれは顔一般のことではなくて、そのとき対面している個別具体的な顔のことだそうです。人は、他人の顔に見つめられることではじめて、自分の存在を意識し、自らに課せられた責任を感じるようになります。なぜなら、顔は一人ひとり異なるばかりか、他人からの眼差しは自分には決して回収できない別世界の存在だからです。

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たしかに、他人の眼差しをコントロールすることはできません。身体は所有できても、眼差しだけは所有できないのです。だから私たちは、他人の眼差しが気になってしょうがないのです。ということは、所有欲の強い彼とうまく付き合っていくためには、彼の目をよく見つめればいいのです。私はあなたのものではないという眼差しで見つめるのです。

「な、なんでそんな目で俺を見るんだ!」。彼はそういうかもしれません。たじろぎながら。そのときこそ、彼があなたを所有することができないと認識した瞬間です。対等な男女の関係はようやくそこから始まります。決して目をそらしてはいけません……。

Text:Hitoshi Ogawa
Photo:雪ボタン、Getty images

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【小川仁志】
1970年京都市出身、京都大学法学部卒。伊藤忠商事に入社するも退職し、4年間のフリーター生活を経て名古屋市役所に入庁。その後名古屋市立大学大学院博士後期課程を修了し、博士号取得。2015年には山口大学国際総合科学部准教授となる。専門は公共哲学、および政治哲学。商店街で哲学カフェを主宰するなど、市民のための哲学を実践している。哲学に関する著書多数。 

 



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