——マツダの本社や工場がある広島まで何度も行くくらい入れ込んでいたようですね。
ほとんど追っかけですよね。マツダの人はきっと昔から熱かったのだと思いますが、僕自身がぜひ乗りたいというクルマがなかった。好きなクルマに乗りたいですからね。とはいえ、高級スポーツカーばっかりでも飽きます。それに輸入車と国産車を比べると、読者のウケがいいのは圧倒的に国産車なんです。
しかも手に届くクルマ。レクサスのことを書いても、どうせ買えないからと触手が伸びないようです。それよりも、ステップワゴンのほうがガチで反応が来る。ホントに購入を検討している人がタイトルに引っかかって読みにくるんですね。その意味で単発なお客さんです。僕の固定客は数万人はいると思われるのですが、高級車の記事はダメです。ポルシェやフェラーリなんてぜんぜん読んでくれない。フィットかヴィッツで悩んでいて、どっちが何万円安くなるの? という人が読みにきてくれるとPVがグンと跳ね上がるんです。
やっぱり書き手としてはランキングが落ちるのはつまらないですよ。面白い視点でスーパーカーについて書いても、たいしてPVが伸びない。よくて3位、下手すると5位とかになってしまうんです。自慢ではありませんが、クルマ系のウェブ媒体と比べるとざっと10倍はPVが違います。
同業者からの批判で心が折れかけた時にもらった「救いの言葉」
——長く続いている「走りながら考える」の連載ですが、日経ビジネスオンラインという硬い媒体の中で、軋轢とかはないんでしょうか?
連載が始まったころは「辞めろ!」「辞めさせろ!」「日経にふさわしくない」という声のオンパレード。それでもコメント欄は褒めているほうが多かった。ただ、「本当にいいコメントばかりなの?」と編集部に探りを入れてみると、ネガティブなのもかなり来ていた。だから、編集さんに頼んで、ネガティブなコメントも載せてよと言いました。僕はぜんぜん平気だよとね。「文句があるなら直接言ってこい」てなもんです。
コメントをよく読むと、どうも同業の自動車ジャーナリストの嫉妬のようなのも多かった。日経の媒体に書くって、あこがれじゃないですか。「キミ、クルマのことわかってないよね。こっちは30年やっているのに、ポッと出のお前が書いてるんじゃねえ」みたいな声が聞こえるようでした。
ほかにも自動車雑誌のヘビー読者。20年『カーグラ』読んでいる人とか、老舗の自動車4誌をスミからスミまで目を通していて、フェラーリのスペックをすべて言えるような人もいる。プジョーとシトロエンがどんなグループに所属しているかもわかっていないシロウトにあれこれ書かれるのは頭にくるワケです。
とはいえ、『SPA!』連載時に、2ちゃんに僕のスレッドが立ったのですが、あまりにもひどい誹謗中傷で、それなりに傷つきました。そんな折りに、日産のBe1などのパイクカーを世に送り出したコンセプターの坂井直樹さんとお話する機会がありました。僕が「ああいう連中はムカつく」と言ったら、坂井さんはそれは違うよと、僕にこんな話をしてくれました。
「彼らは出会い方が違ったら友達になりたかった人だよ」
毎週アラを探しに隅から隅まで読んでくれるのは、いびつなファンなだけで、本も買ってくれているはず。だから「バカじゃなくて、ありがとう」と思いなさい。加えて、「あいつ誰なのって言われなくなったら、フェルは終わりだよ」とも。
坂井さんも学校を卒業してすぐにアメリカ西海岸で売り出したタトゥーTシャツでブレイクした人。いろいろな方面から叩かれたそうです。でも、批判するのはシャツを買ってくれている人なんだとわかって、批判が気にならなくなったそうです。
僕もクルマ業界の外からなんとなく出てきて、メーカーへの食い込みがうまいから仕事があると思われている。だから、坂井さんのお話がエラく腑に落ちたんです。
そういう経緯で批判に対しても向き合えるようになりました。今は連載のコメント欄で、僕へ批判にする人に対して、擁護の批判をする人までいたりして、「おいおい、オレに直接絡まないで、そっちで盛り上がるなよ」なんて笑っています。これからもホメ言葉より批判を糧にして、ビンビンになるような記事を書きまくっていく所存です。あ、本も買ってね(笑)。
Photo:Sono Aida
Text:Kimihide Takasugi
フェルディナント・ヤマグチ
コラムニスト。堅気のサラリーマン稼業の傍ら、顔出しNG、本名など非公開の恋愛投資家、モータージャーナリストとして活動。最近は講演やテレビ・ラジオへの出演も増えている。主な著書に『英語だけではダメなのよ』(日経BP社)、『投資家のための合コン講座』(ソフトバンククリエイティブ)、『恋愛は投資である』(扶桑社)がある。