「感覚と加減」が全て
5年目にして辿り着いた“神業”

FASHION
2015.12.16 update

ベルルッティ銀座並木通り店のオーダーサロン。ここにマスターカラリストと呼ばれる染色技術者が常駐している。彼は、「パティーヌ」と呼ばれるベルルッティの門外不出の“魔法の水”を使った染色法により、顧客に最高のカラーサービスを提供するスペシャリスト。一般的には目に触れることのない、神業とも言われているベルルッティの「パティーヌ」の極意を知るため、マスターカラリストにサトシーノが潜入取材してまいりました!

サトシーノ:今日は、シューズ磨きしていただきありがとうございます! 少しお話を伺ってもいいですか? 以前は、ベルルッティじゃない店でも靴磨きの仕事されていたんですか?

マスターカラリスト:いえ、私は最初からベルルッティです。はじめは、ショップの販売員だったんですよ。入社した時に、まず全員靴磨きの研修はあるんですが、そこからシューズ磨きが好きになり、今の道に進みました。ただ、我々カラーリストがうける研修は、ショップで受ける研修とはまた別で、フランスと日本と両方受けるんですよ。

サトシーノ:日本には何人ベルルッティのカラリストがいらしゃるんですか?

マスターカラリスト:日本で5名ですね。私はずっと銀座店に常駐してます。

サトシーノ:1日どれだけの数磨くのですか?

 

マスターカラリスト:最低10足です。中には、最高20足くらい持って来られる顧客様もいらっしゃいます。

サトシーノ:何十年経ってもベルルッティの靴はカラーを入れることは可能ですか?

マスターカラリスト:基本的には可能です。キズが付いてても、味だったりしますし……。ただ一番怖いのは、乾燥なんですよ。人間の肌も、冬場に何もケアしてないと、あかぎれになったりひび割れになったりするじゃないですか? それと同じで、革も何もしないとひび割れてしまいます。

サトシーノ:ベルルッティって、観賞用に買う人も多いですよね。履かないって場合は、どうすれば状態をよりよくキープできますか?

マスターカラリスト:ただ触っているだけでも良いんです。手脂や、手汗だけでも乾燥は防ぐ事ができます。車と同じで、鑑賞用であってもたまにエンジンをかけてるように、触ったり、足を入れるだけでも良いです。

サトシーノ:靴に対して入れやすい色、入れにくい色っていうのはあるんですか?

マスターカラリスト:特にはないですが、ベースが基本になるので、濃い色を作る時は、濃い色がベースの方が色のでかたが綺麗です。比較的個性がでます。あとは、新品と履いている靴では難易度は圧倒的に履いてる靴の方があります。その人の個性がでたり、履き皺の入り方やキズなどが入るので。レシピがあるようで無いっていうのは、そこですね。レシピはあるんですが、革が主体なので個々の状態が違います。それを活かして、コントロールして色を作っていくのです。

サトシーノ:一足磨くのにはどれくらいの時間がかかりますか?

マスターカラリスト:磨くだけだと、15分〜20分くらいです。カラー入れに関しては、磨く前に行います。パティーヌ、ワックスを塗るんです。ワックスを入れると、色が変わっていくので、それを逆算して、色を入れていくんです。理想の色だと思ってカラーをつけるとワックスでワントーン濃くなってしまうんです。

サトシーノ:なるほど……。

マスターカラリスト:そして、人間の目で見て緑に見えるか、黄色に見えるかはワックスの乗せ方次第で全然変わってくるんです。例えば、これは黒ベースなんですが、できるだけ緑を使わずに、どう緑を表現していくか……。

サトシーノ:そんなことが可能なんですか?

マスターカラリスト:この場合、黄色と黒だけで緑を表現していくんです。染料をカクテル(混ぜ合わす)するんです。これはベルルッティの門外不出の染料なんですが、単色ではなく混ぜて自分たちの色を作るんです。

サトシーノ:黒からこの色にするには、どれくらいの時間がかかりますか?

マスターカラリスト:ある程度色が決まっていれば、2〜3日です。色を落ち着かせる時間も含めて。色ムラを指定される場合や革の状態によって、もう少しかかる場合もあります。

サトシーノ:革に色付けするのは、ベルルッティのヴェネチアレザーじゃないとやはり無理ですか?

マスターカラリスト:色を付けるだけならば、他のレザーでも可能です。ただ、陰影が付かないんです。

サトシーノ:陰影?

マスターカラリスト:このグラデーションのように滲んだ感じの色の風合いは、ヴェネチアレザーでないと出ません。もっと言えば、パティーヌっていうのは、ペインティングとは違うんですよ。例えば、青や黄色の色をペタっと革の上に塗るのとは違って、色が抜けた時の色の変化や色素の抜け方を見ながらパティーヌするんです。そうすると独特な色が生まれるんです。

サトシーノ:確かに、独特な色合いが魅力的ですよね。

マスターカラリスト:例えばこれは、黄色と青とパープルとゴールドを混ぜた色。これはベルルッティの伝統的な色の出し方なんですが、お客様に想像してもらいやすいように色見本として置いているんです。

サトシーノ:色を沢山使えばそれだけ、難しくなるんですか?

マスターカラリスト:色の数は関係ないですね。どちらかと言えば、陰影がつきにくい1色のみの方が難しい場合もあります。

サトシーノ:ここまでの技術を習得するには、どのくらいの期間かかりますか?

マスターカラリスト:まず1年目は、ただひたすら平面に磨くという作業を繰り返します。全体をフラットに磨くというのが、意外に難しいんですよ。店にある革切れをただひたすら1年間磨く修行もしました。

サトシーノ:1年間、ただひたすら革切れを磨くんですか! 驚きです……。

マスターカラリスト:それから2年目は、新品のシューズのつま先だけを磨きますね。3年目で色を付けるという作業を覚えます。「こうだ!」というイメージどおりに色を付けれるようになるには、3年ではまだまだ難しいですね。4〜5年でようやくお客様のシューズを理想通りの色で磨ける形になってきます。 

サトシーノ:なるほど……。そんなに修行が必要なんですね。例えば、このネイビーのアンディの場合、ブルーを入れるんですか? 

マスターカラリスト:はい。でも、ブルーを入れ過ぎると黒に見えてしまいます。そこは“加減”です。入れる量は、経験値でしか図れません。それこそ、失敗しないとわかりませんから。まずそれを1年目で経験するんです。1年目は、磨くと大体黒くなってしまいます。

サトシーノ:加減ですか!? それこそ職人技なんですね。

マスターカラリスト:せっかくネイビーの靴を買ったお客様なのに、黒に見えたらがっかりしますよね。 ネイビーは、カラリストの中でも難しい色です。太陽光や自然光で見た時にブルーネイビーに見えないと、ご注文に答えたことにはならないです。

サトシーノ:それは、確かに素人では色を出すには至難の業ですね……。どういう所が、失敗しないポイントになりますか?

マスターカラリスト:色の量と、磨く時の力の入れ方です。ベルルッティの靴のシャイニングは、力を入れて磨くことはしないのです。どちらかと言えば、窓拭きみたいな感覚です。窓拭きって、あまり押して磨かないですよね。あれと同じで、力を抜いて基本的には薄く、薄く磨いていくんです。

サトシーノ:僕はよくゴシゴシ磨いてしまいます……。それはいけないんですね。

マスターカラリスト:水と油を用いれば、誰でも単純に光るんですけど……。それだと、色が変わってしまうんです。発色を加えて磨をかけるので、ベルルッティの靴磨きは難しいとされるゆえんかもしれませんね。

サトシーノ:この仕事で嬉しいと思う瞬間は?

マスターカラリスト:つきなみですが、お客様の喜んでいただいた瞬間ですね。私は、ベルルッティの技術を忠実に守っているだけです。そこに自分の色が出てしまっては、ベルルッティじゃなくなりますから……。顧客様のベルルッティに対するご要望に、いかにして満足したサービスを提供できるかに尽きます。 

サトシーノ:フィニッシュに使っているのは、水ですか?

マスターカラリスト:これは、ただの水じゃないです。アルコールと溶剤を混ぜたものです。アルコールの純度を上げたり下げたりして、使うアイテムによって分けています。

サトシーノ:さまざまな革の状態や、キズなどを見て判断し、色入れして磨くってことでいえば……まさにベルルッティのお医者さまですね!

マスターカラリスト:そんな大それたものじゃないですよ!

サトシーノ:素晴らしいプロの精神ですね。

マスターカラリスト:それに、キズが悪いって事だけではないんです。お客様によっては、キズが旅の思い出だったりしますしね。そうしたお一人、お一人のご要望にお応えするのが、我々の仕事だと思っております……。 はい、お待たせ致しました。これだけ美しく蘇るんですよ。

サトシーノ:うわ! 話しているうちにあっという間に綺麗なネイビーカラーが復活しましたね! 素晴らしい……。今日は、本当にありがとうございました。大切にこれからもベルルッティを履き続けます。また、カラーの相談も人生の相談もさせてください!

マスターカラリスト:銀座店でいつでも、お待ちしております。

Photo,Text:Satoshi Nakamoto

【問い合わせ】
ベルルッティ インフォメーション
0120-203-718
http://www.berluti.com

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