５つのキーワードで知る“ナポリの粋”
第４回：ナポリのおもてなし

2015.6.19 0

アモーレ（愛）の国

中川以前、イタリアで“あなたにとって特別なコーヒーのブランドはありますか？”というアンケートしたときに、北部の人たちは35%が“ひいきにしているブランドがある”という回答だったんです。それに対してナポリでは63%の人がそう答えて、トップブランドが“KIMBO”だったんですよ。

干場なるほど。それは興味深い話ですね。

中川宣伝みたいになっちゃいましたね（笑）。おもてなしに話を戻すと、基本的に“泊まっていけよ”みたいな感じの人が多いですよね（笑）。逆にこっちが戸惑うぐらいサービス精神旺盛。本当にオープンで垣根がないというか。それでいて世話好き（笑）。

干場確かに、そうですね。誰かが道に迷っていれば必ず声をかけますから。バールに入っても“これ美味しいから飲んでみる？”とか、“水は飲む？”とか、いろいろと気遣ってくれますよね。ナポリにいるとそれが普通に感じますけど、ほかの国じゃあ、まずないですよ。

干場ところで、『マカロニ』（1985年公開イタリア映画）って映画を観たことありますか？ジャック・レモンとマルチェロ・マストロヤンニという、アメリカとイタリアを代表する名優が共演した作品なんですけど、ナポリ人の思いやりの精神がよくわかります。

中川それは僕も観ました。ナポリの下町に暮らす人々の生活がありのままに描写されていますよね。すごく美しい風景で、しかもそれが現在もほとんど変わっていないのも奇跡的です。貧困のなかにも自尊心と人情味が見え隠れして、しみじみと温かい気持ちになれる映画でした。

干場観ていない人のために少しストーリーを説明すると、アメリカの航空機会社の副社長を務めるジャック・レモンが、仕事で40年ぶりにナポリを訪れると、そこにマストロヤンニが訪ねてくるんですよ。レモンは社会的地位と財産はあるけど、仕事に忙殺されていて私生活はボロボロ。マストロヤンニはレモンが戦時中にアメリカ兵としてナポリに来て、自分の妹と恋に落ちたことを伝えるんですけど、レモンは完全に忘れている。

中川そうそう。それでなかば強引にレモンを自宅に連れて行くと、親戚家族と妹は大歓迎してくれる。40年ぶりなのに、“君は必ず戻ってくると信じていた”なんていってね（笑）。

干場それでレモンは、マストロヤンニが待ち続けていた妹を失望させないようにと、自分に扮して妹に手紙を送り続けていたことを知るわけですよ。それもナポリに戻れない理由を書き綴った冒険談なんですよね。

中川最初はマストロヤンニを邪険に追い払ったレモンが、そういう温かい心に触れていくうちに、その手紙にあった虚像に近づきたいと思っていく。言葉にするとちょっとクサイですけど、人の温かみとか、夢とか、信じる力とか、友情といったものがぐっときますよね。

干場ストーリーを全部つまびらかにしちゃうのは野暮なんで、このへんにしときましょう。で、僕がたまらなく好きなシーンがあるんですよ。

中川もしかしたら一緒かも（笑）。

干場マストロヤンニが“人生を浪費するのは楽しい”っていう場面です。

中川やっぱり（笑）。それってまさにナポリ的ですよね。仕事人間で人生に疲れていたレモンの表情が生き生きとしてくるのがすごく伝わってきましたから。

干場さすがの名演技！

中川結局、繰り返しになっちゃいますけど、ナポリの人たちって人生を楽しむ術に長けているんですよね。そこに、お金があるとかないとかはまったく関係ないし。でも日本だって何十年か前までは、同じような牧歌的で幸せな光景がいくつも見られたと思うんですよ。ただ、人生を楽しむ、っていうのが難しい……。

干場確かにそうかもしれませんね。なんか、最後は深い話になっちゃいましたね（笑）。