スイスの渓谷から歴史がはじまった
ジャガー・ルクルト創業の地は、大都市ジュネーブから車で90分ほど離れた山間部。ジュウ渓谷というエリアである。ここは“ウォッチバレー”と呼ばれ、いくつもの名門時計メーカーが拠点を構えている。とはいえ耳を澄ませばカウベルの音が聞こえてくる長閑な場所であり、いかにもスイスといった牧歌的な風景が広がっている。
1833年。アントワーヌ・ルクルトは、ここに最初のアトリエを構えた。彼は優れた時計製造者であったが、同時に発明家でもあった。高品質の時計を作るためには、まずは完璧な機械が必要だと考え、ミクロン単位の測定を可能とする「ミリオノメーター」などいくつかの機械を発明する。この“完璧主義”が、後の躍進を支える。
ジャガー・ルクルトは、微細なネジからケースにいたるまで、ほとんどのパーツを内製している。しかもどれだけ複雑なムーブメント(時計のエンジン)も、自分たちで組み上げる。2014年までに1249種類ものムーブメントを開発しており、取得した特許は400件以上。これらが示すのは、卓越した技術力を持っているという事である。
彼らのように自社一貫製造体制を確立している時計メーカーは、“マニュファクチュール”と呼ばれる。全てを自分たちで作るということは、デザインも内部も妥協しないということ。何年もかけてムーブメントを開発し、年間に数本しか作れないという超複雑時計を生み出すことができるのは、彼らが完璧主義だからである